Viscum
植物と香りと身体の関係
Plant × Scent × Body
植物・香り・身体
植物が放出する香気成分は、単なる「良い香り」ではありません。
それらは植物自身が周囲の環境や他の生物と関係を築くために放つ化学的なメッセージ(BVOCs:Biogenic Volatile Organic Compounds)でもあります。
人はその揮発性成分を呼吸とともに体内へ取り込み、嗅覚受容体を介して脳へ情報を伝えます。嗅覚は視覚や聴覚とは異なり、大脳辺縁系や自律神経系へ比較的直接的に作用する感覚であり、記憶や感情、生理反応と密接につながっています。
しかし、どれほど質の高い香りを嗅いだとしても、それだけで身体が変化するわけではありません。
身体の反応は、その人の神経系の状態、呼吸、睡眠、ストレス、生活環境、過去の記憶、さらには空間の温度や湿度、光、植物の存在など、多くの要素が重なり合うことで生まれます。
私の中では香りを「効能」として扱うのではなく、人と環境との関係性を調整するひとつの要素として捉えています。
植物、空間、光、湿度、素材、そして香り。
それらが相互に影響し合うことで、人の身体は無意識のうちに環境を知覚し、自らの状態を調整していきます。
Viscumでは、植物学、芳香植物学、嗅覚科学、神経科学、環境デザインなど複数の分野を横断しながら、「植物と身体はどのように対話しているのか」という問いを研究・実践しています。

植物の解体と再構築
ティンクチャー
精油は、植物が持つ芳香成分を凝縮した素晴らしい素材であり、私たちも大切な植物資源の一つとして活用しています。
一方で、その製造には大量の植物原料が必要となる場合があり、栽培方法や収穫時期、水資源やエネルギーの使用など、環境負荷について考えるべき課題も存在します。例えば、開花前後のタイミングで大量に収穫される植物では、受粉を担う昆虫との関係や生態系への影響が議論されることもあります。また、蒸留工程では熱エネルギーや冷却水を必要とするなど、多くの資源が使われます。
Viscumでは、そのような背景を踏まえ、植物との新たな関わり方として**ティンクチャー(植物浸出液)**の可能性を探究しています。
植物をアルコールなどに時間をかけて浸漬することで、揮発性成分だけではなく、植物が本来持つ穏やかな香りや質感、時間の変化までも丁寧に抽出します。急激に成分を取り出すのではなく、植物の時間に寄り添いながら香りを受け取る工程です。
私は、ティンクチャーを精油の代替として考えているのではありません。植物ごとの個性や特性に応じて、精油、芳香蒸留水、ティンクチャーなどを組み合わせ、それぞれの長所を活かしながら最終的な香りを設計しています。
植物を資源として消費するのではなく、その生命や環境との関係性を尊重しながら香りをつくること。
ティンクチャーは、Viscumが植物との持続的な対話を続けるための、大切な研究テーマの一つです。

By-products & Botanical Distillation
副産物から生まれる、新しい循環。
Viscumでは、木工所から生まれる端材や削り屑、剪定材など、本来であれば廃棄される木質資源を積極的に蒸留し、香りの素材として活用しています。
製材の工程で役目を終えた木々にも、まだ豊かな香りや成分が残されています。それらを「廃棄物」として扱うのではなく、新たな価値を持つ素材として見つめ直すことが、私たちの研究の一つです。
蒸留によって得られる芳香蒸留水や植物成分は、空間づくりや香りのプロダクトへと姿を変え、もう一度人の暮らしの中へ循環していきます。
このプロセスは単なるリサイクルではありません。
植物が歩んできた時間を受け継ぎ、新たな役割を与えることで、これまで気づかれなかった香りや素材の可能性を発見する創造的な取り組みでもあります。
Viscumは、植物資源を最後まで活かすための研究を続けています。木工所や製材所、林業関係者の皆さまをはじめ、資源循環や未利用材の活用にご協力いただける方、また副産物を活かした香りやプロダクト開発にご興味をお持ちの企業・団体の皆さまとの新たな出会いを歓迎しています。
廃棄されるものの中に、次の価値を見つける。
それもまた、植物とともに未来をつくる一つの方法だと私は考えています。
